

NO MORE RULES「ルールに縛られない」
かつてイエメンは、コーヒーの種子が国外に持ち出されることを固く禁じていた。栽培の秘密を守るため、生きた種子は決して国境を越えさせない。それが当時の絶対的な掟だった。イエメンの港町モカから世界へ広まったコーヒーは、長らくこの一国だけの独占物だった。
伝説によれば、あるスーフィーの聖者が、その掟を破った。聖地メッカへの巡礼の帰り、彼は7粒の種子を身体に隠し、監視の目をかいくぐって国境を越え、インドへと持ち帰ったという。見つかれば命に関わる行為だったが、それでも彼は種子を手放さなかった。
このたった7粒から、コーヒーはインド、そしてオランダやフランスの植民地を経て、瞬く間に世界中へと広がっていった。掟を守っていれば、コーヒーは今も一国の中だけの秘密のままだったかもしれない。私たちが日々当たり前のように口にしている一杯も、その存在自体、誰かが掟の外側に踏み出した結果として、ここにある。
ルールというものは、多くの場合、誰かを守るために作られている。けれど時に、その外側に踏み出した者だけが、次の景色を切り開くこともある。その歴史が存分に詰まったコーヒーは意外なほどにコーヒーらしくない味がする。
ルールに縛られない。だからこそ、手にできるものがある。




