AVE MARIA「今あるすべてに感謝しよう」

ヨーロッパでは、「マリア」の名を冠した植物が数多く残されている。中でも、スズランはその代表格のひとつ。地味な緑の葉の陰に隠れるように咲く、白く小さな花でありながら、あたり一面に届くほど強く、甘い香りを放つ。人々は、その香りの強さと、花の姿の慎ましさとのあまりの落差に、これは人の世のものではないと感じた。伝説では、この花はマリアが流した涙から咲いたのだといわれ、「マリアの涙」と呼ばれてきた。

香水の世界では、長年この花の香りを人工的に再現しようと試みられてきた。優れた調香師たちが幾度となく挑んだが、いまだに天然のスズランと寸分違わぬ香りは作れていないという。小さな花びらの内側で、何が起きればあの香りが生まれるのか。

こうした話は、決して珍しいものではない。世界中の花や果実の香りの多くが、気の遠くなるような時間をかけて自然がたどり着いた、偶然の組み合わせにすぎない。それでも人は、その香りを前にするたびに、まるで意図を持って作られたかのような精巧さに驚かされる。このコーヒーもそんな奇跡のひとつだ。

自分の力では到底再現できない何かが、目の前に当たり前のように存在している。そのことに気づいたとき、ただ驚くだけでは足りず、その恩恵の中に自分がいることへの、静かな感謝が湧いてくる。

今あるすべてに感謝しよう。